XCOM キメラ・スクアッド レビュー

4/14に突然告知され、十日後に発売された20$のXCOMスピンオフ作品を、5/21のパッチ後に難易度エキスパートで一回クリアした筆者のレビューです。


フルプライスのリブート版XCOM二作の三分の一の価格で、11名の異種族隊員同士の軽妙な掛け合いと、ADVENT支配終了後の共存都市での市長暗殺に端を発する治安維持を目的としたキメラ・スクアッドの活躍を描いた今作は、プレイヤーの分身不在の代わりに敵対していたエイリアン達が再び起こす事件とそれを止める同族も含む隊員達を対比しながら2040年のアメリカを暗喩したストーリーを下敷きに、従来のXCOMシリーズとは異なるゲームルールと調整が施された実験作だ。


過去作と最も異なる点は、索敵パートを取り去り警察特殊部隊の突入に置き換えることで、時間の許す限り牛歩監視戦術が鉄板だった部分を、有利不利が明示された能動的な進入方法と待ち構える不確定要素に対する下準備と突入射撃に昇華したことだ。

突入後はそのまま残存した敵と隊員の行動順が入り混じる混合ターン制で遮蔽を挟みつついつもの撃ちあいを始める。

しかしそのプレイは過去作とは大きく異なる、狭いマップと従来より低い移動力と距離が近くなりがちな初期配置は、混合ターン制と組み合わさって敵の攻撃を許し被弾と回復を前提としたバランスを提示し、チュートリアルでそれらの対処法を教えている。

ところが実際のプレイでは細かいストレスが生まれる、突入後の各隊員の位置取りは操作できないので倒し損ねた敵に側面を晒すことがしばしばであり、突入射撃時にどの敵が混合ターン制で早期に行動するか分からない為、反撃してくる攻勢状態の敵を掃討した後は突入後に味方を脅かしうる敵がどれか分からず選択する意味が薄くなる。

そしてマップ上にはしばしば射撃で爆破可能な遮蔽物が設置されており、破壊すると酸の海をばら撒いたり爆発して近くのユニットを炎上させる。

これらプレイヤーが管理できない要素が組み合わさると、敵にターンを回した途端たまたま危険な遮蔽物の隣に陣取った未行動の隊員の体力と、気休めだが基本的な防御手段を一気に奪ってくる。

今作は最初から隊員が2回の攻撃をギリギリ耐えられるHPを持っているし、被弾前提で回復アイテムを持ち込めばいいだろうと考えるだろう。

しかしダメージを受けた隊員が運よく回復アイテムを持っているとは限らないし、持っている隊員が偶然隣接していなければ移動にアクションポイントを費やしてから回復してあげなければならない。

遠隔回復が行える医療用グレムリンを使う隊員もいるが、過去作と違い攻撃用のグレムリンを持った隊員に救急キットを持たせても同じことはできない。

そして一番の問題は回復できる隊員のターンが来る前に次の敵にターンが回って止めを刺しに来るのは防げないのだ。

ではどうするか?過去作同様やられる前にやるしかない。

とはいえ敵味方の戦力が上手く調整された今作では、過去作のようにゲーム後半にインフレするXCOM本隊の如く戦場を焼け野原にはできない。(一部例外と言える隊員もいるが)

そして隊員の初期アビリティを見ていて気付くのは敵の無力化や弱体化能力の高さだろう。

機械の敵をハックするパッチワーク、超能力で混乱させ同士討ちまで引き起こすヴァージ、長い舌を伸ばして敵を引き寄せ拘束するトルク、拳だけで肉薄して気勢を削ぐゼファー、攻城兵器の如く突進して敵をなぎ倒すアクシオム。

紹介しなかった隊員も混合ターン制を念頭に置いた敵無力化や味方の支援能力を多数そろえている。

その結果、被弾と回復前提だったはずのゲームは極力敵にターンを回さず殲滅するいつもの光景に逆戻りする。

実際には与ダメージに対して敵の体力も比較的高めで初期からアーマーを備えたユニットも多数出現するため、難易度エキスパートならば仕留め損ねた敵に反撃を受けたり、行動順の遅い厄介な敵の排除を優先して放置した別の敵の攻撃を甘受する場面もある。

これは開発者が意図したゲームバランスであり、各場面での意思決定を面白くするために良く調整されている。

しかし隊員達の成長は早い、敵撃破の経験値よりもミッション参加の経験値のほうが遥かに多いため、初期の4+1名の隊員達はどんどん昇進して初期アビリティと噛み合った能力を次々獲得していき、一定の昇進毎に数日訓練させれば更なる潜在能力を開花させる。

最大8名になる隊員達でミッション出撃枠の4席を争うのは補欠を含めて5,6名となり、ゲーム中盤には怪我や訓練で出撃出来ない限りミッションに出るメンバーはほぼ固定化される。

そして基地に残った隊員の仕事はお馴染みの研究に加えて治安維持部隊らしく市内での聞き込みだ。

初期では戦略資源の金・情報・エレリウムの3つのどれか1つを一定期間隊員を割り当てることで調達してきてくれる。

これらの資源は都市の各地区にフィールドチームを配置することで定期的に獲得することもできる。

昇進した隊員を割り当てることで行える上位の任務も存在するが、必要な日数は相応に増えてキャンセルすれば一切成果は無いので人数が少ないうちはリスクが大きい。

戦略ゲームに慣れたプレイヤーなら、ミッションでも得られるこれらの資源のどれが重要で、どう活用すれば戦闘で有利になるかと考えるだろう。

そして過去作をプレイした熟練コマンダーなら、今作は科学者や技術者が居ないのだから装備を買うための金しかない、と予測するだろう。

間違いではない、ゲーム開始時に持っている装備は突入用の爆薬くらいで治安維持部隊であるキメラスクアッドにはフラググレネードの一つも支給されていないのだ。

初期から2枠ある武器アタッチメントと突入用の装備にユーティリティーアイテムを揃えるなら初期資金では到底足りない。

三種の戦略資源の中で獲得レートが名目上高い金は魅力的に映り、手っ取り早く隊員を強化できる装備を急いで揃えるために金稼ぎにリソースを突っ込むだろう、しかしそれは罠だ。

戦場に出ない隊員を遊ばせておく代わりに資源を獲得させるのは実質無料だが、フィールドチームの配置にはコストが掛かる。

それは情報であり同種の資源収入を得ようとするとコストは上昇する、設置したチームに追加投資を行い特殊効果を有効化させるための情報コストも上昇する。

このゲームの戦略面で大部分を支配するのは情報なのだ、情報で間接的に金とエレリウムを買うことはできるが逆はできない。

そして定期的に開催されるブラックマーケットで購入に使えるのも情報だけだ、これは前作XCOM2と同じで、金はあっても情報を買うことはできないことを引き継いだと解釈できるが、自前の研究と開発が貧弱な今作ではプランBを選べないのは窮屈だ。

そして最大の問題はブラックマーケットのラインナップだ、毎回3個ランダムで提示される商品はどれも強力で購入に必要な情報も相応に高い。

そして高品質な武器アタッチメントや遮蔽を破壊し直接ダメージを与えられるグレネードは殆どここでしか手に入れる手段が無いのだ。

かくして最も重要な戦略資源を定期的に開催されるとはいえ、品ぞろえはランダムなブラックマーケットに突っ込もうとするプレイヤーが現れる。

序盤からブラックマーケットを当てにしてフラググレネード欲しさに情報をケチるか、内政に投じて早期に拡大再生産体制を整える堅実な隊長になるかはプレイヤー次第だが、今作はプレイヤーの分身であるコマンダー不在で、ケリー局長も嫌味で無くなった評議会のハゲポジションなので感情移入する主人公はいない。

この構図が意図されたものかは不明だが、研究・開発で入手できない装備が他と比べて強力なのは明確にデザインされたものであり、これが今作のユーティリティーアイテムの仕様と噛み合い戦場で猛威を奮う。

隊員が昇進で獲得するスキルはどれも強力だが、使用にはアクションポイントを必要とし、発砲やダメージを伴うアビリティは原則ターン終了する。

一方ユーティリティーアイテムは使用にアクションポイントを使わない、回数制限があるとはいえ使い得である。

しかも強力なアビリティはミッション内で一度しか発動できないものが多く、連戦ミッションでどのアビリティやユーティリティーアイテムをいつ使うかは重要な問題だ。

そして不確定要素が多く残っている状況ではアクションポイントを消費せず、後でクールダウン制のアビリティを使う余裕が残るユーティリティーアイテムのほうが便利である。

ゲーム後半では同じように入手に運が絡む、一つしか存在しないエピック武器が出てくる。

過去作で強力だったスキルを備え、今作の環境ではどれも強力ゆえ入手に運要素とミッション内の回数制限や長めのクールタイムを与えられているが、ユーティリティーアイテムと比べても強力な武器だ。

これらをフル活用することで1ステージしかない通常ミッションはもちろん、連戦のストーリーミッションすらなぎ倒す勢いで敵を殲滅する、過去作顔負けの超人(+エイリアン)隊員が生まれる。

それぞれ事情や思想がある3つのテロ組織とその裏にいるラスボスの起こす事件はたった4名の部隊の圧倒的な力の前にゲームバランスもろともひれ伏すことになる。

過去作と比べて戦場が狭く、敵の数や強さも十分に調整されているが故に、上手なプレイヤーへのご褒美がゲームを崩壊させる悪用の余地をもたらす。

過去作でもゲームバランスを損なうような強力な要素は複数あった、しかしそれには研究と開発を続けた結果や運が悪ければ即死する隊員を生き延びさせ、育て上げた先に得られるもので、その過程は試行錯誤とリプレイ性を残したものである。

だが今作は違う、内政をするのも強力な装備をガチャるのも情報である、そして情報以外で成し遂げる方法は殆ど無いのである。

11名いる個性豊かな隊員の内、1プレイで最後まで昇進し、訓練で全ての能力を獲得するのは5,6名で十分で、上記のゲームシステムの悪用を踏まえてバランスを壊しうる性能を叩き出す隊員も同じくらいの数だ。

 

XCOM キメラ・スクアッドは過去作から冗長な部分やコアである戦術戦闘に不必要な部分を削ぎ落し、都市部の治安維持活動に適したゲームデザインに置き換えた良作である。

場面ごとに有限のリソースを分配して隊員を死なせずクリアするパズル要素の増えた戦術戦闘は良く調整されており、UI/UXも価格を考えれば妥当なもので、隊員同士の掛け合いは演技も翻訳も過去作に引けを取らず、人間もハイブリッドもエイリアンも知的生命体として優劣を明らかにするようなものではなく、新たに種族差と個体差を短い会話で小気味良く示し、恐らく現在開発中のXCOM3を示唆するスピンオフとしては最上の出来だろう。

取り去るべきものを上手く置き換え、XCOMの良い部分をコンパクトにまとめ直した本作は戦略面での単調さを残すことになったが、戦術戦闘自体の面白さは消えておらず、続編やスピンオフが抱えがちなマンネリ感を払拭するために新システムを導入した消化不良の結果と言えよう。

本作にXCOMシリーズの指揮を執ったJake Solomon氏は関わっておらず、リードデザイナーのMark Nauta氏はXCOM2の開発に携わっていた人物だ。

もはや付け加えるべきものが見当たらないXCOMシリーズで海中が舞台になると思われる次回作が何を取り去り、どう置き換えることで新たな環境の戦術ゲームに落とし込むか期待を後押ししてくれる作品となった。